令和6年予備試験:商法(予想A)

 商法 4枚

第1 設問1(1)

本件株式の買取りは、自己株式の取得(会社法(以下略)160条、157条)であるところ、株主Dに交付した金銭等の帳簿価額は1,000万円である一方で、自己株取得の効力が生ずる日である令和6年3月31日時点の分配可能額は1,200万円であり、これを超過しており、財源規制に違反している(461条1項3号)。財源規制違反の自己株取得の効力が問題となる。

財源規制の趣旨は、会社財産の流出を防ぎ、会社債権者を保護することにある。もっとも、株式の流通を促進するために取引の安全を図る必要性もあるし、また、会社債権者は株主に対し、金銭を支払わせることができる(463条2項)ことから、自己株取得を有効にする許容性も認められる。しかし、非公開会社においては、株式の流通を促進する必要性は乏しいため、取引の安全を図る要請は後退する。そこで、非公開会社における財源規制違反の自己株取得の効力は無効となると解する。

本件では、甲社は、発行する全部の株式の内容について譲渡制限を設けている非公開会社であることから、財源規制に違反する本件株式の買い取りは無効である。

 

第2 設問1(2)

1Aの責任

取締役Aは「当該行為に関する職務を行った業務執行者である。また、本件株式の買い取りは財源規制に違反していることから、「前条第1項の規定に違反して」甲社が「3項」に掲げる行為をしている。よって、Aは、「金銭等の交付を受けた者」であるDが「受けた金銭等の帳簿価額」1,000万円を甲社に支払う義務を負う。

もっとも、「職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したとき」は上記義務を負わない(462条2項)。

Aは自己の直属の部下であるGの記載の失念を見逃している。Aは、通常からGに任せきりにしており、自らが関与して記載内容をチェックすべきであったのに、それを怠っている。よって、上記義務を違反しているため、免責は認められない。

 

2Dの責任

株主Dは「金銭等の交付を受けた者」に該当することから、1,000万円を甲社に支払う義務を負う(462条1項)。

 

3Fの責任

「役員等」とである監査役Fは、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(423条1項)。

まず、「任務を怠った」といえる。監査役は取締役の職務の執行を監査する(381条1項)。また、これを担保するために、業務及び財産の状況の調査をすることができる権限が認められている(381条2項)。そうであれば、Fは計算書類と会計帳簿の内容の照合を行うのみであったことから、監査義務に違反しているのではにか。もっとも、監査役が会社の職務の執行の内容の妥当性まで監査するとすると、範囲が広範となり実際的でない。しかし、会計監査人設置会社でない会社においては、会社の計算書類を確認する役割が監査役には期待されていることから、財産の状況の調査については内容の妥当性についても監査義務が及ぶと解する。

本件では、甲社は会計監査人設置会社でない会社であるにもかかわらず、会計帳簿の記載内容の妥当性を何ら確認せず、照合を行っていたのみであるから、監査義務に違反しているといえる。よって、Fは「任務を怠った」といえる。

これ「によって」、本件株式の買い取りが実行され、1000万円の「損害」が甲社に生じているといえる。

以上より、Fは1000万円を甲社に賠償する責任をおう。

 

第3 設問2

1 Aは甲社の株式の100分の90以上を保有しているため、「特別支配株主」(179条1項)である。そこで、Eは、179条の8第1項の規定に従い、売買価格の決定の申し立てを裁判所に行うことが考えられる。Eは取得価格に不満を感じているからである。

2 Eは、Aに対し、株式売り渡し請求に係る株式の取得をやめることを請求することが考えられる(179条の7第1項)。

「財産の状況にその他の事情に照らして著しく不当」(同項3号)といえるか。

税理士Hは、甲社株式の評価額は6万円から10万円との意見を出しており、本件売り渡し請求記載の価額6万円はこの評価額のレンジにおさまっている。しかし、税理士HはAと旧知の仲であることから、この評価額を別の専門家において検証することで、当該意見で出された評価額のレンジが適切なものかどうかを確認することで、6万円という金額が「著しく不当」といえる可能性がある。もっとも、Aは、E含めて事前に退出の機会を与えたうえで、「著しく不当」とはいえない可能性もある。

以上より、Eは、認められない可能性があるものの、179条の7第1項の請求をすることが考えられる。

3 Eは179条の5の規定に従い、株式売渡請求に関する書面の閲覧または交付の請求をすることが考えられる。他の専門家に株式の評価額の算定を依頼する際に、必要となる情報を収集するためである。

 

【所感】

条文は見つけられたが、売り渡し請求の差し止めについて、「不利益を受けるおそれ」の有無の検討をしておらず、要件の検討漏れがあった。また、監査役の責任については、会計監査人非設置会社における監査役の義務の範囲が良く分からなかったが、こじつけで財務面の内容の妥当性監査も義務に含まれるものとして、423条1項違反としたが、これがどのように評価されるか。条文検索ができなかったり、民法の分量の関係で最後まで書いていない方が一定数いるようなので、上振れを期待したい。B~Aの予想

 

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