刑法事例演習(Chapter 1):問題3

  1.  Xの罪責
    1. Xは、公園でAの顔面を殴り(第1暴行)、その後、港において、頭部を殴り(第2暴行)、また、殺意を抱いて顔面に殴る(第3暴行)という3つの暴行行為を行っているが、これらの行為は、Aに向けられた暴行行為であることから、一連の行為と見れるか。
       ①各行為の時間的場所的近接性、②行為態様の類似性、③犯意・動機の単一性等を考慮して、一連の行為と見れるかを判断する。
       まず、上記3つの暴行は、3km離れており、1時間の間隔であり、場所的時間的にも近接しているといえる。また、行為態様もAに向けられた暴行行為であり、同一性が認められる。しかし、第1暴行、第2暴行は暴行の故意を有する行為である一方で、第3暴行は殺意を有する殺人罪の実行行為であり、犯意が異なる。また、第3暴行は、Aが悪態をつたたため行ったものであるが、第1暴行、第2暴行は、AがYを中傷したことから行ったものである犯行動機も異なるものである。
       そのため、第1暴行と第2暴行は一連の行為(以下、「対象暴行」という)と捉えることができるが、第3暴行はそれらの行為と一連の行為とみることはできない。
    2.  対象暴行について傷害罪(204条)が成立しないか
      1. 対象暴行はAの顔面、頭部を殴る「暴行」行為をしており、その結果、骨折という人の生理的機能を害する結果を生じさせており、「人の身体を傷害した」といえる。また、故意(38条1項)も当然に認められる。
      2. よって、傷害罪が成立する。
    3. 第3暴行について殺人未遂罪の共同正犯(60条、203条、199条)が成立しないか
      1. XとYは共に殺意を抱き、殺人罪を実行する意思の連絡が認められる。
      2. また、共にAの頭部という人の枢要部を殴る、蹴るなどの行為を共同して行っていることから、殺人罪の実行行為を「共同して」実行したといえる。
      3. よって、殺人未遂罪の共同正犯が成立する。
    4. Aを自動車に乗せた行為に監禁(220条)が成立しないか。
      1. 「監禁」とは、人を一定区域からの脱出を不可能若しくは困難にして移動の自由を奪うことをいう。
         自動車は高速で移動するものであり、そこに入った場合、移動中は外に出ることが実質的に不可能なものである。そのため、自動車に乗せる行為は、Aが自動車内からの脱出を困難にして、Aの移動の自由を奪っているといえる。
         よって、「監禁」にあたる。
      2. 故意(38条1項)も認められる。
      3. 以上より、監禁罪が成立する。
  2. Yの罪責
    1. まず、上記3.で検討したように、第3暴行には殺人未遂罪の共同正犯が成立する。
    2. 次に、対象暴行について、傷害罪が成立するか。
    3. Yは一緒に制裁を加えるという共同実行の意思連絡を行った上で、第2暴行をしているが、Yは第1暴行は行っていない。そのため、Yに加担前の暴行から生じた可能性のある傷害罪を帰責させてもよいか。承継的共同正犯の成否が問題となる。
      1. 共同正犯の処罰根拠は、自己及び他人の行為を介して法益侵害を共同惹起し、結果との因果性を有する点にある。そうであれば、先行行為者が創出した先行事実を積極的に利用し結果を発生させたといえる場合には、結果との因果性を有するため、承継的共同正犯が成立すると解する。
         本件では、YがAに暴行を加える際に、Xが先行して創出した状況を積極的に利用したと伺われる事情はない。
         そのため、Yに承継的共同正犯は成立しない。
    4. そうだとしても、207条の適用ができないか。
       207条の趣旨は、二人以上で暴行を加えたにも関わらず、誰も傷害の罪責を負わないことの不都合性を解消することにある。そうだとすれば、いずれかの者が、傷害結果に関する罪責を負う場合には、207条の適用は否定されると解する。
       本件では、Xは対象暴行について、傷害罪の罪責を負うことから、Yに207条の適用はない。
    5. 以上より、対象暴行について、傷害罪は成立せず、暴行罪(208条)が成立する。
所要時間:60分
承継的共同正犯の重要な前提として、後行者の加担前の行為と加担後の行為が一連の行為であることが必要である。

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