刑法事例演習(Chapter 1):問題2
- Xの罪責
- A宅に火をつけた行為につき、現住建造物放火罪(刑法108条1項)が成立しないか
- 「現に人が住居に使用し」とは、犯人以外の人が、起臥寝食の場として日常使用する場所をいう。
A宅は、X以外の人であるAが暮らしている家屋であるため、「現に人が住居に使用し」ている「建造物」といえる。 - 「放火」とは、目的物の燃焼を惹起する行為をいい、A宅に火をつけた行為自体はA宅の燃焼を惹起する危険性を有する行為といえるため、「放火」にあたる。
- 「焼損」とは火が媒介物を離れ、独立して燃焼を継続し得る状態になったことをいい、A宅は全焼しているため、「焼損」したといえる。
- 上記放火行為と焼損の結果との間には、因果関係が認められる。
- Xは、Aが旅行に行ったのを「離婚の意思で家を出ていき、二度と戻ってこない」と誤信していたことから、A宅を非現住建造物(109条1項)と認識しており、「現に人が住居に使用し」ているという事実の認識を欠いているため、故意は認められない。
- よって、上記行為に現住建造物放火罪が成立しない(38条2項)。
- Xは、非現住建造物放火罪の故意を有していたことから、本罪が認められないか。
- 軽い罪の認識で重い罪を実現した場合には、構成要件が実質的に重なり合う限度で軽い罪の構成要件の該当性が認められ、構成要件の重なり合いは、保護法益と行為態様から判断すると解する。
現住建造物放火罪と非現住建造物放火罪の保護法益は社会に対する公共の安全であり、共通しており、また放火という行為態様も共通している。
よって、軽い罪である非現住建造物放火罪の限度で、構成要件の重なり合いが認められる。 - Xは、非現住建造物放火罪に該当する事実の認識があるため、故意(38条1項)が認められる。
- 以上より、Xの上記行為には、非現住建造物放火罪が成立する。
- Yの罪責
- Bの荷物に火をつけた行為につき、現住建造物放火未遂罪(112条、108条)が成立しないか。
- まず、Bが「住居に使用している建造物」であるB宅は、燃焼していないため、「焼損」という結果は生じていない。
- 次に、「放火」とは、目的物の燃焼を惹起する危険性を有する行為をいう。
Xが火を付けた対象物は、B宅の玄関前に置いてあったBの荷物である。玄関前であれば、Bが管理する他の物に延焼し、その結果、B宅に燃え移る可能性があったといえるため、上記行為は、燃焼しえる状態を惹起する危険性を有する行為といえる。
よって、「放火」にあたる行為を開始したといえ、実行の着手(43条本文)が認められる。。 - 故意は、構成要件に該当する事実の認識・認容をいうところ、未必の故意も当然に含まれる。
Xは、「B宅に延焼してもかまわない」と思いながら、火をつけており、現住建造物放火罪に該当する事実の認容があるといえる。
よって、故意が認められる。 - 以上より、Yの上記行為には、現住建造物放火未遂罪が成立する。
所要時間:32分
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重い罪のTb該当性が、くどいか。直接放火、全焼の事案であるから、放火、焼損は軽めで良いかも。
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